2009/11/20

行政刷新会議事業仕分け

「行政刷新会議」による事業仕分けが行われているが、その中で科学研究の巨大プロジェクトがやり玉に挙がっている。税金の使い方を是正するために、いろいろな事業の中から無駄を洗い出す。仮にそのような事業仕分けのコンセプトは正しいとしても、その乱暴なやり方は「酷い」としか言いようがない。

その中で我々に最も関係が深いのはSPring-8だ。年間の運営費が86億円かかり、そのうち15億円が電気代だと言うことから「無駄であると」一刀両断にされ、「(H22年度予算を)3分の1から2分の1程度縮減」との評決結果が出た。その理由が公開されているのだが、全文を以下に紹介する。

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●「大型放射光」としての利用について、見直し、利用時間の増加に向けて努力すべき。委託の必要はあるか。
●現状のようにランニングコストとして国費を年86億投じ続けることに対するアウトプット(メリット)が 説明されていない。高額高コストのインフラなら波及効果を含めたメリットを説明しきる努力が必要。 年86億に見合うメリットは何か、説明が充分でなければ、国費を認めがたい。メリットそのものの問題ではない。説明の問題。
●将来的にも、料金収入だけでは運営不可能で、国費の投入が避けられない以上、必要最低限 の国費投入が原則である。ビームラインの増設は費用対効果が見込めない以上認められない。利用効率の低いラインのスクラップアンドビルドで自己努力すること。
●自己収入を大きく高める余地あり。
●国際協調の観点から広く(アジアの)他国から開発費・開発者をつのり、運営費を負担してもらうべき。
●収入増の工夫の余地があると思われる。
●収入増の努力が必要。利用促進に必要経費の見直し。
●収益確保すべきと思われる。シェアを削減。
●固定費を明確にし、国費の負担部分を明確に。固定費と変動費を明確に分離する。その上で付加機能はコストをもとに拡充。
●自己収入をあげるための努力を高める工夫が必要。
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どうだろう?これらが正当な予算削減の理由だ、と言って良いのだろうか?放射光は工場ではないので、運転することによって直接的に利益を生み出すわけではない。そこで基礎研究を行うことによって将来の役に立つような研究を行い、合わせて人材を育成するのが目的だ。「ヒ素入りカレー事件」の証拠固めに使われたり、薬の開発に役に立つようなタンパク質の構造解析に使われる、と言う分かりやすい例もあるだろうが、しかしそれだってすぐにお金になるわけではない。ほとんどの研究は数年から数十年かけて検証され、発展させて「直接的に役に立つ」ことに繋がって行く。SPring-8はそのような基礎研究の場を一般の研究者に提供しているわけで、そこで「収入」について語るのはナンセンス、としか言いようがない。

資源の無い日本が「大国」としてやってこれたのは、明治維新以来、あるいは戦後の苦しい時期から基礎研究と人材育成への投資をして来たからだ。そもそもSPring-8のような世界最高性能の加速器を作った言うこと自体が、日本の科学技術のレベルの高さの証明なのだ。そのへんの検証もビジョンもないままに、数人の「仕分け人」の短時間の審議で運営費を大幅削減する事は、言わば「金の卵を産むガチョウを殺す」に等しい暴挙だ。Natureでも取り上げられているように世界的な注目度も高いので、このままでは日本と日本政府が世界の笑いものになるのは間違いない。

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